
ちはっす。
何となくインチキ臭い新刊本のタイトルの様な感じですが、以前の記事、
インスリンと糖および脂肪を世界一解り易く解説する
の続きです。お待たせいたしました(笑)
前回、見事に糖尿病を発症したグータラは、病院で運動療法を指導されます。
おおまかに言えば、食後にウォーキングや軽いジョギングなどの無理のない運動をやりましょう!という感じです。
「糖尿病」と宣告されて恐れ入っている皆さんは、普通はこれを真摯に受け止め、真面目に取り組むことと思います。
しかしながら「真面目であれば万事が上手く行く」というほど世の中甘くはありません。
そもそも、それを「やれ」と言っている奴が、同時に「糖尿病は治りません」と言っているのですから、少なくとも「そんなことをやっても治らない」ということだけは確かです(笑)
ほんじゃぁ、まぁ、それはそれとしまして、とりあえず、糖尿病治療における運動療法の意味を考えてみましょう。
もしかしたら、糖尿病完治に向けてのヒントがあるかもしれません。
と言いますか、結果的にはあるんですが(笑)
まず、病院側発表によれば、運動の意味はおおまかに2種類あると言います。
1.血糖コントロール(血糖値を下げる)
2.脂肪の燃焼
まぁ、運動すればエネルギーを使うので、血糖値も下がるだろうし、脂肪も燃えるかな、と何となく理解できます。
とは言え、その程度の理解では、とてもじゃありませんが糖尿病完治を目指すことなどできません。
そんなものは、「働けばお金がもらえるから金持ちになれる」という理解と同じ様なものです。
そんなことで金持ちになれるなら、世の中無職以外は全員金持ちになっています。
糖尿病も同じで、そんな理解で治るなら、世の中のほとんどの糖尿病患者はとっくに治っています。
ここは一つ、運動が血糖値を下げるメカニズムについて掘り下げて調べます。
前回の記事で出て来ました、インスリンなしで糖を取り込む「非インスリン経路」です。
過去記事でも何度も触れているところなんですが、非常に重要なので、ちょっと詳しめに説明します。
まず、運動(筋収縮)を行うと、当然我々はエネルギーを使います。
糖や脂肪というのは、そのままではエネルギーとして使えません。
我々の身体は、糖や脂肪からアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーの源みたいなものを作り出します。
言ってみれば、糖や脂肪をATPに両替するようなものです。
ATPは、アデノシン(アデニンという塩基にリボースが結合したもの)に3つ連結したリン酸基がくっついています。
このリン酸同士の結合を高エネルギーリン酸化結合と言って、非常に不安定な結合なんですが、それ故に結合のために高エネルギーを伴っています。
このATPからリン酸が一つ切断された時のエネルギーを我々は使っています。
(切断されたリン酸基が他の分子とより安定な結合をした場合、 エネルギーが余剰となる。)
筋中には常にこのATPが蓄えられています。
さて、我々が運動を行うと、このATPを消費することになります。
ただ、運動を始めると、筋中に蓄えられているATPの量では、数秒も持ちません。
よって、身体は常にATPを作り出しながら運動することになります。
つまり、運動中というのは、我々の身体は異化(分解)しながら、エネルギーを産生して行く訳です。
この「運動中は異化が亢進」という点は、後に糖尿病の運動療法を考える上でも重要になりますから、覚えておいて下さい。
次に、運動中にこのATPを作り出す方法には、大きく3種類あります。
1.クレアチンリン酸によるATPの再合成
2.解糖系によるATPの合成
3.酸化系によるATPの合成
この内、2の解答系云々というのは、糖によるエネルギーの産生で、3の酸化系というのは脂肪によるものです。
1のクレアチンリン酸によるATPの再合成というのは、馴染みが薄いかもしれませんので簡単に説明します。
先ほど説明した様に、我々はATPからリン酸が一つ取れた時のエネルギーを使っています。
ATPからリン酸が一つ取れると、アデノシン二リン酸(ADP)になります。
この時、ADPに筋中に蓄えられているクレアチンリン酸をくっ付けて、手っ取り早くADPからATPに再合成するのが、クレアチンリン酸によるATPの再合成です。
昔は、運動中のエネルギーを作り出す方法は、この1、2、3の順番で起こると考えられていました。
今でもそう書かれている教科書はあります。
巷で語られていた「有酸素運動は開始後20分後ぐらいから脂肪が燃え出す」という都市伝説も、ここから来ています。
しかしながら、最近の知見ではそうではないことが解っています。
どんな運動を行っても、この3つの方法は常に使われています。
但し、運動の種類によって、その使われ方の割合が違います。
例えば10秒以内の短時間の高強度運動(ダッシュとか、高重量のものを一気に持ち上げるような運動)の場合でも、酸化系のATP供給は約17%あり、残りはクレアチンリン酸系と解糖系が半々ぐらいの割合です。
酸化系によるATPの供給は、30秒ぐらいまでの運動で20%、60~90秒で55%、120~180秒で70%と時間が長くなるにつれ増えて行きます。
つまり、キックミット1ラウンド3分のような運動は、高強度運動には変わりがなく、やってる本人は無酸素運動だと思っていますが、実は酸化系のATP供給が70%もあり、脂肪を使う割合がかなりの部分を占めます。
以上のことから何が言えるのかと言いますと、運動というのは、より強度が高い方がエネルギーを多く使うので、より脂肪が燃焼するということです。
低強度運動は、長時間になればなるほど酸化系のエネルギー供給は増えますが、それはあくまでも相対的な割合に過ぎず、絶対量ではありません。
1時間も2時間もピョコピョコ歩くぐらいなら、エアロバイクを最大負荷にして全力でやれば、わずか数分から数十分で、それ以上の効果を上げられるということです。
ここにおいて、病院側発表の運動療法の意味、2.脂肪の燃焼というのは、少なくともそれを目的とするならば、無理のない軽いウォーキングというものは、「やらないよりはやった方が良い」という程度のもので、合目的ではないということです。
但し、これをもって、糖尿病の運動療法が駄目という意味ではありません。
これまでの話は、「病院で指導される運動療法よりも、少なくとも高強度の運動の方が脂肪は燃焼できる」というだけの話です。
本当の駄目な理由は、今から説明することにあります(笑)
血糖コントロールの良し悪しは運動の強度で決まる
↑の命題は、このブログでは何度も出て来ます。
非常に重要なポイントなので、今一度説明します。
前回の記事では、非インスリン経路での糖の取り込みを以下のように説明しました。
非インスリン経路というのは、我々が運動(筋収縮)をすることにより起こります。
運動を行うと、細胞一家はいろいろな労働に駆り出されることになります。
散々コキ使われ、細胞一家は腹ペコになります。
そうすると、細胞一家のGLUT4は、腹ペコで我慢できず、インスリンがインタホーンを押すのを待ちきれず、もうドアを開けて家の前で食料を待っています。
この場合は、インスリンが来ようが来まいが、糖を持って行ってしまいます。
これをもう少し詳しく説明しますと、
運動を行うとATPを消費(分解)します。
つまり、ATPからリン酸が一つ取れて、アデノシン二リン酸(ADP)が増えて行きます。
ADPは、更に加水分解されアデノシン一リン酸(AMP)とリン酸に分解されたり、また、ADP濃度が上昇して行くと、骨格筋はAK(アデニレートキナーゼ)を活性化します。
このAKが2つのADPを触媒し、ATPとアデノシン一リン酸(AMP)が作られます。
こうしてATPが消費されて行くと、ADP濃度が上昇し、最終的にはAMPが増えて行きます。
我々の身体は、ATPに対するAMPの量をモニターしており、AMPが増えて行くと、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化します。
このAMPKこそが、エネルギー調節の最も重要な因子であり、これが活性化されると、身体は異化(糖や脂肪、タンパク質は分解)され、同化(糖や脂肪、タンパク質の合成)を抑制し、エネルギーを産生する方向へ向かいます。
そして、このAMPKによる身体の異化は、同時に次の同化のための準備も行われます。
その一つが、Glut4の発現量の増加であり、これが即ち「非インスリン経路による糖の取り込み」なのです。
つまり、
エネルギーを消費→ATPを消費→AMPが増える→AMPKの活性が増える→Glut4の発現量増加→インスリンなしで糖を取り込む
ということです。
よって、エネルギー消費が大きければ大きいほど、AMPKは活性化し、Glut4の発現量も増え、より多くの糖を取り込む(血糖コントロールが良くなる)ということです。
そして骨格筋は、エネルギー消費(糖の消費)が大きければ大きいほど、新たにGlut4を作り出します。
(Glut4が多ければ多いほど、より多くの糖を取り込めるので)
これがどれぐらいのものかと言いますと、
The impact of brief high-intensity exercise on blood glucose levels
休憩とウォーミングアップを入れ、わずか25分の高強度の運動1回で、2型糖尿病患者の食後血糖値を24時間改善し、2週間のプログラムでは、48時間~72時間改善しました。
Glut4は、なんと369%増加しました。
ここにおいて、病院側発表の運動療法の意味、1.血糖コントロール、というものも、無理のないウォーキングのような低強度の運動では「やらないよりはやった方がマシ」程度にしかならないことがご理解頂けると思います。
つまり、糖尿病の運動療法というのは、「血糖コントロール」と「脂肪燃焼」という目的を掲げているにも関わらず、その方法論が間違っているということです。
更に、運動療法の決定的な間違いは、食後に運動するという点です。
そもそも運動は食後にやるものではない
食後に運動という運動療法は、上がってしまった血糖値に対処するためのものです。
しかしながら、我々の身体というのは、食後にはインスリン等のホルモンを分泌し、同化する方向へ身体は傾きます。
つまり、糖や脂肪、筋肉等は合成する方向へ向かう訳です。
とは言え、運動というのは身体を異化し、エネルギーを産生する方向へ向かいます。
運動中に身体が同化し出したら、エネルギー供給は上手く行かず、運動の継続が難しくなります。
逆に言えば、食後の運動だからこそ、ウォーキング等の低強度の運動しかできないのです。
「食事をして血糖値を上げてから運動で下げる」というのは、慢性的な高血糖状態を避けるという意味では対処になっていますが、本末が転倒しています。
正常な代謝というのは「食事をしても高血糖にはならない」ということなのです。
つまり、上がってしまった血糖値を下げるのではなく、そもそも血糖値が上がらない身体作りをしなければ根本的な解決になりません。
およそ生き物であれば、身体のシステムは、運動(狩り)でエネルギー産生(異化)→ 食事・休養(同化)というシステムになっています。
食事してから狩りに行く間抜けは、走れませんから次の獲物を得られません。
ウォーキングで何を狩るつもりなんでしょうか?(笑)
結論
運動療法というのは、異化すべき時にはしっかりと異化した上で次の同化に備え、同化すべき時には、十分な栄養素(多過ぎず、少な過ぎず)をしっかりと摂り、同化します。
この繰り返しが、身体に正常な代謝を覚え込ませることにつながり、同時に強度の高い運動が血糖コントロール、脂肪燃焼に対し最大限の効果を発揮します。
結果的に、この積み重ねが糖まみれ、脂まみれの糖尿病患者の身体を改善し、インスリン分泌の回復につながります。
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